SF-tuzureorim01


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(2007−01)

−2007年5月19日−


『イリアム:ダン・シモンズ』


 随分とさぼっていた。昨年の10月からだから、ざっと7ヶ月以
上更新を怠ってきたわけだ。4月の職場の朝ミーティングで、今年
「やり抜きたいこと」というテーマでスピーチをする機会があり、
思わず「10年続けてきたWebサイトを更新すること」と言って
しまった。なんだか義務感とプレッシャーで、なかなか手がつかな
かったんだ。昨年から仕事が忙しくて、また通勤でじっくり読むこ
とがなかなかできないこともあり「書くよりは読む」ことに徹して
きたという事情もあったり。でもやっぱりSFは面白い。    

 2006年、私のなかではまたまたダン・シモンズがやってくれ
た。『夜更けのエントロピー』を読んで以来、もう3年経つわけで
待ち遠しくて仕方なかった。2002年、私はシモンズにぐらぐら
と揺さぶられた。『ハイぺリオン』シリーズはジョン・キーツの長
編詩をモチーフに壮大な物語として編まれた。2002年の春から
冬にかけて、『ハイぺリオン』『ハイペリオンの没落』『エンディ
ミオン』『エンディミオンの覚醒』と読み続けたときの興奮を私は
忘れない。21世紀を生きる現在の私にとって、最良のSFパート
ナーはダンとグレッグ・イーガンだと思う。その期待に違わない作
品であった。早川書房から昨年7月に刊行された分厚い単行本。 

 『イリアム』は、誰もがその名を聞いたことはある筈のホメロス
の長編詩『イーリアス』がモチーフである。これはもうシモンズ節
と言ってもいい、壮大な世界だね。ギリシャ神話の世界。少年時代
に子供向けの抄訳本は読んだことはあるが、ギリシャやトロイの英
雄たちの名前も巻頭の索引を見ないと、誰が誰だっけ状態で読み進
むことになり、結構時間がかかったね。            

 はじめのうちは大変読みづらい。大まかに言えば、3つの異なる
時間線に存在する世界が交互に描かれるためなかなか全体像を把握
しづらいのだ。紀元前12世紀頃のトロイア戦争の舞台であるイリ
アム。神話の神々が降臨し、人間の戦争に干渉する。打って変わり
数千年後の飼い殺し状態の未来の人類。進化した人類はポストヒュ
ーマンと呼ばれ、何処かへ去って行った。残されて地球上で飼い殺
し状態の人類は古典的人類と呼ばれている。さらにその時代の木星
系の衛星で進化したモラヴェック。半生物機械。有機的脳を持つア
ンドロイドと言えばいいのか、なかなかに面白い存在だ。物語はま
るでホメ−ロスの長編詩『イーリアス』をなぞるように展開するの
だが、だんだんと逸脱し、はちゃめちゃな展開となる。ダンはこの
物語のエッセンスに量子物理学と多元宇宙を放り込み、さらにシェ
ークスピアのさまざまな作品世界、とりわけ『テンペスト』を出典
とする登場人物(怪物を含む)を放り込み、ロバート・ブラウニン
グの詩編を怪物の台詞として引用する。その世界観は、SFという
作品のかたちを借りながら、本当に文学を愛する者の、人類への哀
歌として表出されている。ダン・シモンズ恐るべし。実はこの作品
には『オリュンポス』という続編があり、実は2007年5月の現
在、ほぼ読み終えるところなんだ。続編まで読むと、このイリアム
でダンが提示しようとしていた世界観の凄さがわかる。この壮大さ
への言及は次作『オリュンポス』の書評にて語ることにしよう。 




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