SF-tuzureoriF19


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(2000-19)

−2000年11月5日−


『影が行く:P.K.ディック、D.R.クーンツ他』


 <ホラーSF傑作選>と銘打たれた、中村融氏の編訳による名作
13編の短編アンソロジー。                 

 どうも10月は多忙すぎて、「SF綴れ織り」の更新を疎かにし
てしまった。10月は本当に多忙で、前半は今更ながらと思いなが
ら、某国家試験を受験。まあ、これは通って当たり前という程度。
 そして、件のIT革命ブームによる補正予算関連の仕事で超多忙
になってしまったという次第。元々、私はIT革命推進論者なのだ
が、現在のIT革命騒動は私などの思いとは位相が違うもののよう
だ。某国の首相あたりはIT革命を推進することが「経済対策」で
あるかのように勘違いされているし、巷で取り上げられる薔薇色の
「IT立国論」も胡散臭い。技術王国日本の再来を願望するような
教育論は勘違いとしか思えない。正直言って、今更としか思えない
このブーム。本質的には80年代にアルビン・トフラーが看破した
ように、歴史の必然としての<第三の波>、産業革命以来の社会構
造の大転換がはじまっていると正視すべきなのだ、と思う。   
 この大変革は、決して薔薇色のユートピアの到来を意味している
のではない。産業構造の転換が進んでいくのだから好況時であって
も倒産する会社がでることもありうるし、失業や転職といった時代
の荒波に翻弄される多くの善良な市民が輩出するであろうことも、
想像しなくてはならない。その認識のもとで、なおかつ推進すべき
だ、とも思う。なぜなら、このデジタルネットワーク社会の到来は
ある意味でギリシャ以来の直接民主主義の再来を期待することもで
きる、と思うからだ。そして、<知>の共有と創造こそが大事だ。

 前置きというか、言い訳が長くなってしまったが、実はそうした
多忙さのせいだけで遅くなったとは言えない。どうも、この短編集
のようなホラーものは得意ではない。読む速度は遅々として進まな
い。ディックの短編もあるのだが、これはホラーというよりむしろ
不条理もの、といったほうがいいだろう。全編を通して、結局現代
社会の<不安>の表層を漂よう気分が、だるく感じられる。   

 後書きで、編訳の中村融氏自身が解説されているように、欧米の
作家たちが、1950年代という時代の不安感を見事に掬いあげて
いる、という見方もできるだろう。科学技術の急速な進歩のなかで
蔓延するテクノフォビア(技術恐怖症)から惹起されるパラノイア
的な<恐怖>。そして、当時の<冷戦構造>のなかで育まれた「隣
人がスパイにみえる」といった神経症的な不安感。都市のなかで、
孤独を深める現代人の不安感。いったい私たちは中世の暗黒を支え
た、科学への無知と恐怖を笑うことができるだろうか。     

 ディーン・R・クーンツの『悪夢団(ナイトメア・ギャング)』
はクーンツらしい作品で、ミュータントがテーマなのだが、なにや
ら現在のカルト集団を想像させてくれる。捕らわれた狂気とでもい
う世界を短い作品に凝集している。フリッツ・ライバーの『歴戦の
勇士』も、ホラーものというよりタイムスリップものとして楽しめ
る。この短編集の標題にもなったジョン・W・キャンベル・Jrの
『影が行く』は、私たちの知っているホラーSF映画の原型のよう
な作品だ。いや、むしろ<異星からの侵略もの>の原型といった方
が適切かも知れない。他にも、個人的にはジャック・バンスの『五
つの月が昇るとき』やブライアン・W・オールディスの『唾の樹』
も楽しめた。なんだ、結局楽しんでるんじゃねえか、って言われそ
うだけれど、やはり苦手な部類だね。すっきりと楽しめるSFに出
会いたいものだ。                      




forward

back

top
1