SF-tuzureoriF06


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(2000-6)

−2000年3月20日−


『時に架ける橋:ロバート・チャールズ・ウィルスン』


 この作品の原題は、<A BRIDGE OF YEARS>。
このタイトルから、タイムトラベルものであることは容易に推察で
きることだろう。私などのような中年には、この物語から連想する
TV番組がある。<タイム・トンネル>。若い人は知らないだろう
ね。この作品で使われるガジェットは、まさにこのタイムトンネル
と言ってもいい。時空構造の織目のなかの歪みを利用したタイムト
ンネル。それは進化した遠未来人が見い出した、または作りだした
ものらしい。しかも一挙に遠未来から現在へジャンプできるわけで
はなく、割と近接した時空同士をわたることしかできないらしい。
過去から未来にいたるまで、無数のタイムトンネルが存在し、しか
もそれは一定の期間しか存在しない。そこでそれぞれのトンネルの
両端には、タイムトラベラーが番人のように居座っている。彼らは
その時代の人類が違和感を持たないように、近未来から選抜されて
派遣されているらしい。彼らは番人であり歴史家であり、その時代
の情報を収集し、遠未来人に渡すと言う役目を負っているらしい。
因みにこのタイムトンネルの両端では、ほぼ等速度で時間が経過し
ている、という設定になっている。              
 物語は1979年のタイムトンネル出入り口の番人であるタイム
トラベラーが残殺されるところから始まる。だからといって、この
物語が全編ハードボイルドなわけではない。          

 この物語には、二筋の関心の撚り糸があると思う。ひとつはSF
らしいガジェット溢るる関心の軸。これは数十年前に戻れるならば
という時間旅行ものらしい関心と言い換えてもいい。もうひとつは
物語の設定されている1989年という現在からみた1962年。
これはどう言えばいいのだろうか。これは作者自身の関心であり、
私たちのように1960年代にティーンエイジャーだったものには
共感できる関心の軸と言ったらいいのだろうか。この後半の軸に沿
って少し考えてみたい。主人公は1990年代を目前にした時代の
なかで暗然たる思いで生きている。世界はどんどん悪い方向へ進ん
でおり、そのことに正面からぶつかり政治的な活動にのめり込んで
いく妻。その妻に見捨てられた主人公。彼は遁世をはかるように、
生まれ故郷の片田舎に見つけた屋敷に住みつく。だが、そこはタイ
ムトンネルの出入り口だった。60年代へ戻った主人公には、そこ
はまだ未来への希望や変革への意志に充ちた若者が群居する憧れの
地のように感受される。もちろん、そのどちらの時代も知っている
私たちにとって、各々の時代をそんな単純な図式で語ることができ
ないことはよくわかっている。しかし、この物語を読みながら随分
と考えさせられたことは確かだ。たしかにあの黄金の60年代を経
て、70、80、90年代と続く時代は豊かさこそ増したものの、
決して良い世の中になったとは思えない。インターネットの登場で
世界はますますボーダレスになり、本当に<人類>という視点での
世界観が要求されているというのに、狭隘な『民族主義』やカルト
的な『宗教』が隆盛している時代に私たちは生きている。時代は進
化しつつ、荒廃を深めている。そうした時代状況に対して、70年
代の政治闘争を闘った一員として、私自身もあまりの政治的アパシ
ーに陥ったがために、こうした状況は促進されているという責任さ
へ感じてしまう。この状況のなかで、もう一度いかに生きるのかを
問われていると感じた。私の個人的感慨だけではすまないことだろ
うと思う。米国にもこのように感受する作家がいるのだと思った。

 SF的な楽しみについてはあまり触れなかったが、奇抜さはない
ものの、じっくり感じて考えることができる佳作だと思う。ロバー
ト・チャールズ・ウィルスンの作品をあと幾つかは読んでみたい、
と思わせてくれた。期待したい。               




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