SF-tuzureoriF04


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(2000-4)

−2000年2月5日−


『模造世界:ダニエル・F・ガロイ』


 原題は『SIMULACRON−3』、社会環境シミュレータ。
サイバースペースもので、こうした仮想空間に作られた擬似現実の
世界にはすっかり驚くことのなくなった私たちに、この作品が19
64年に書かれたという事実は衝撃的だ。ガロイという作家はP.
K.ディックと昔から比較され、耳にしたことはあるが、実際にそ
の作品を読むことは稀であった。たしかに似ているところもある。

 私たちは現実世界の<不確かさ>やその<揺らぎ>に、いつか現
実感を希薄にしている自分自身に出会うことがある。幻想や夢と、
現実の記憶との境界や領界が不分明な気分。いったいどこまでが夢
や幻想で、いったいどこまでがリアルな現実なのか。私たちの自我
は、現実世界が揺らぐと感じた途端に、そのリアリティを希薄にし
てしまう。その危うさは、体験的に了知できるものだろう。   

 この『模造世界−SIMULACRON−3』は、こうした現実
と私たちが認知する世界の危うさ、希薄さを見事に描きだした作品
と言えるだろう。そういった意味で、P.K.ディックと比較され
てきたことはよくわかる。<神>という概念から未だに自由になれ
ない欧米の知識人のありさま、としても。私たちの現実/世界/宇
宙とは、上位の存在がこしらえた造りものではないか、という不安
感。1964年という時代は、このことにぴったり符号している。
まだ、コンピュータが紙テープや紙カード、磁気テープ、磁気ドラ
ムといった周辺機器で動作していた時代に、これだけの仮想世界を
描くことができた作家の<構想力>に感嘆せざるをえない。   

 作品の解説は控えよう。1964年の作品とは思えない構想力。
だが、現在ではこのアイデアはあちらこちらで見かけるもの。虚心
に読めば楽しめる。技術タームや用語は、現在のものに読み替える
といいだろう。しばしば使われる<アナログ社会>という表現は、
デジタルとアナログというシェーマではなく、現実に相似した社会
という意味で使われている。そうだね、アナログってそういう語義
もあったね、と新鮮だった。                 
 創元SF文庫の解説で、尾之上浩司氏が詳しくふれておられるが
、この作品は<13F>というタイトルで映画化されている。映画
化の経緯や、そのタイトルの由来など詳しく述べられているので、
この解説も楽しめる。日本での映画公開の時期にあわせた、文庫本
発刊に私もうまく踊らされているのだろうか。たぶん、この映画は
見逃すことはできない、と思ってしまったから。        




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