SF-tuzureoriF01


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(2000-1)

−2000年1月1日−


『飛翔せよ、閃光の虚空へ:キャサリン・アサロ』


 1999年の終わりに近い時期、普段の私には似合わない作品を
読みはじめたものだ。だが、たしかに面白かった。物語は最初から
もうひとつの宇宙史を想起させるに充分な設定のなかではじまる。

 地球暦の23世紀。その宇宙では、紀元前40世紀に地球から何
者かによって連れ去られたホモ・サピエンスをルーツとする異星人
が存在している。その宇宙の異星人たちは『遺伝子操作』によって
二種類の人類がつくりだされてしまった。いわば悪役的な<アリス
ト階級人>。苦痛への耐性を高めるために造りだされた遺伝子エリ
ートは、産まれながらのサディスト(?)でもある。その対極には
<ローン系サイオン>と呼ばれる超感能力者(エンパス)がいる。
この二つの人類圏の対立と抗争が物語を推進していくコアである。
 主人公の王女ソズ(ソースコニー)は抜群のエンパスで、超光速
宇宙船と一体化して戦うジャグ戦士でもある。さらに、この二つの
陣営の対立に加えて、中立の立場を貫く<地球人>の地球連合圏。
舞台立ては、いかにもといった冒険活劇ロマンなのに、飽きずに読
ませてくれるのは、ぴりっとしたサイエンス風味がきいているから
だろうか。なんと言っても、特殊相対論から発想された<反転エン
ジン>のようなガジェットにはワクワクしてしまう。『速度に虚数
の成分を加える』ことによって光速の壁を折り返すことによって、
理論的に突破するという、この超光速駆動機関など、空想の楽しさ
をこそ堪能させてくれる。                  
 ここは文句なしで、純粋にエンターテイメントを楽しむべきであ
ろう。主人公ソズのトラウマを共に感受し、そして<ローン系サイ
オン>の王位継承者としての政治的暗闘と孤独にはらはらし、彼女
の心理的な葛藤にともに心を痛める、といった正統的な楽しみ方が
お勧めである。このあたりの人物描写は作家アサロのスペースオペ
ラ作家としての力量を推察させてくれる。           
 この、もうひとつの宇宙史には、あらかじめ<スコーリア戦史>
というかっこいい命名がされている。スペースオペラとしては、き
っと有望なシリーズになるだろう。だが、文庫本の帯に「アメリカ
版《星海の紋章》」という賛辞が載せられているが、日本のSFは
殆ど読まない私には、「そうか、《星海の紋章》ってそんなに面白
いのか」と思わせてくれた作品ではある。これは褒め言葉としては
有効であるだろうか?                    


 ところで、この作品と並行して年末に読んだ作品(SFではない
のだが)「神々の座を越えて」も面白かった。私の好きな谷甲州氏
の山岳冒険小説である。97年のSF綴れ織りでとりあげた「天を
越える旅人」を連想させる作品である。チベット、山岳仏教、輪廻
転生(Reincarnation)、、こういった主題を谷甲州
は、どのように継承し、熟成させていくのだろうか。興味深い。特
にこの作品では人物がよく描かれていると思う。最近の甲州のSF
作品である「エリコ」ではこの点が不満だっただけに、満足した。

 いずれにしても、2000年も、いや21世紀も、第三ミレニア
ムも「期待してもいいな」と思わせてくれた、1999年の年の瀬
であった。ありがたいことである。              




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