SF-tuzureoriB8


SF綴れ織り

TommyおじさんのSF綴れ織り(98-18)

−1998年10月17日−


『レッド・マーズ:キム・スタンリー・ロビンスン』


 誰かが書くだろうと思ってはいた。火星年代記のプレゼンス版。
 NASAの各プロジェクトをはじめ、私たちの<火星>に対する
知識や理解は60年代以降、膨大なものとなっている。当然、その
知識をベースに、見てきたような物語を誰か語るとは思っていたの
で、意外ではなかった。作者のキム・スタンリー・ロビンスンは、
文庫本となった『永遠なる天空の調べ』しか読んでいなかったのだ
が、クラークやブリン、ベンフォードにビショップなどの私の好き
な作家達がベタ褒めの、この作品。とても期待して読み始めたのだ
が。うーむ。                        

 最近の作品に多い傾向なのだが、導入部が退屈で、なかなか読む
速度があがらない。この「レッド・マーズ」も然り。前半は退屈と
言ってもいい。どうしてなのだろう。おそらく推敲を繰り返すこと
によって、全体としてみると意味有る導入部ではあっても、純粋に
引込まれるような導入部とはなっていない。つまらないイントロの
楽曲のように。全巻を読み通したあとならば理解できる構成となっ
てはいるのだろうが、導入部の面白さにあっという間に引込まれて
しまうという作品が本当に少ないね。読み通すぞという決意なしに
持続するのが難しいなんていうのは、そもそも許せない。    

 最初にいろいろと文句だけつけておこう。登場人物が類型的すぎ
るし、火星に植民した日本人グループの神道的な描写はひどいとし
か言えない。他の民族の描写もほぼ同様だ。どうやら、この作家の
現在への理解を示しているとしか思えない。民族や国家の類型化は
現実への接近を深めることはありはしない。ただ、物語の骨格を維
持していくための、浅薄な技法としか言えないだろう。     
 軌道エレベータやテラフォームなど、出現するテクノロジーにも
目新しいものはない。センスオブワンダーなど期待してはいけない
のだ。                           

 これだけ文句をつけておけばいいだろう。たくさんの不満はあっ
ても、この作品は是非読んでほしい。私もいろんな人が誉めている
から読み通そうと思ったのだが、読み終えてみると、この作品が現
在の人類の火星に対する理解を、誠実にてんこ盛りにしたものであ
ることがわかる。「火星を原状のまま保存すべきだ。どんな生命も
宇宙のなかでは等価だ」と主張する<レッズ>と、「火星を人類の
宇宙への飛翔基地とするため、緑地化つまり地球化すべきだ」と主
張する<グリーン>の対立と葛藤。衰退していく政治的国家と超巨
大なグローバル企業体の駆け引きと対立。現在の私たちにとっても
考えさせる問題である。そして、スーパーヒーローなどは存在せず
、やや類型的すぎる主人公たち<最初の百人:物語りのなかで最初
に火星植民した百人の科学者や技術者達>も、恰も現実のさまのよ
うに死んでいくリアリティ。そして、後半でのカタルシスに近い、
革命と崩壊。なかなか、ロビンスンという作家はしたたかである。

 この『レッド・マーズ』に続いて、『グリーン・マーズ』『ブル
ー・マーズ』と続く3部作。続く2作ともヒューゴー賞とローカス
賞を受賞したそうだ。それだけでも期待感がつのる。さらにジェー
ムズ・キャメロンが映画化することも決定したらしい。こうした話
題性だけでも充分に90年代を代表する3部作となるであろうこと
が予想される。はやく『グリーン・マーズ』『ブルー・マーズ』を
読んでみたいものだ。                    




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