SF-tuzureoriB4

TommyおじさんのSF綴れ織り(98-14)

−1998年8月17日−


『ホログラム街の女:F.ポール.ウィルスン』


 『DYDEETOWN WORLD』            
 どうして、こんな邦題になってしまったのか。なんだか、嘗ての
洋画における誤解多き意訳と同様のタイトルになっている。   
 この作者、F.P.ウィルスンの作品はこれまで手にしたことが
なかった。普通ならば、こういうハードボイルド調のタイトルなら
ば敬遠するところなのだが、原題の「ダイディタウン・ワールド」
や訳者・浅倉氏の「あとがき」を眺めて、読む気になった。   

 全体を通じてテンポも良く、軽妙洒脱な語り口に魅了されると、
楽しく読める作品だ。                    
 もともと、3部の短編を加筆して長編にしたものらしく、アイデ
アも、起承転結も3部のそれぞれに用意されている。訳者によれば
”稀代のストーリーテラー”らしい。たしかにその片鱗を窺うこと
はできたようだ。                      
 主人公の私立探偵シグの人物描写には、なにかしらシンパシーを
禁じ得ない。そしてジーン・ハーロー(M.M以前のセックスシン
ボル)のクローンまで登場するに至っては苦笑を禁じ得ない。まあ
テーマだとか、大上段に構える必要はまったくないのだが、産児制
限の未来管理社会のなかでも、非公然に出産された<落とし子>が
存在し、やがて物語のメインストリームは彼等の存在と解放という
大団円に向かっていく。ともすれば、とっても臭いテーマになりそ
うなところを、さらりとした、まさに軽妙洒脱な語り口でステップ
を踏んでいく作者の力量には感嘆するほかないだろう。     

 F.P.ウィルスンは医者らしく、現在では医学サスペンスや近
未来サスペンスを書いているらしい。その前はSF作家であったり
ホラー作家であったりと「特定のジャンル」のラベルを貼られるこ
とに抵抗があったらしい。                  
 そうしたこともなんだか妙に理解できてしまう、そんな作家だ。

 まあ蛇足ながら、原題の「ダイディタウン」とは近未来のクロー
ンを囲った高級売春窟のことである。             
 そしてその時代では都市は壮大な構造体となっており、その外装
もホログラムで粉飾されており、また大金持ちでもなければ窓から
実際の景色を見ることのできるようなところには住むこともできず
構造体の奥深くに住む普通の人たちの部屋の窓にはホログラムの景
色が投影されているというわけだ。              
 肩の力を抜いて読まれるならば、お勧めだ。         









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